気むずかしく声を荒げて

 谷村さんは、夕飯を持つて来るまでに調べておきたかつたので、気むずかしく声を荒げて云いました。「僕アおなか[#「おなか」に傍点]いつぱいだ、もう一時間位してからにして下さい」 太つちよの女中は、谷村さんを見ても、朝のようにキッキッと笑いませんで、淋しそうに大きい溜息をついて、手紙箱の方をしらべに...

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女のひとの眼

 女のひとの眼は空の色を写していたせいか、美しく、またなくなまめかしく谷村さんの心をかすめました。 谷村さんは、下宿の下まで来ると、またきびすを返して、女のひとに別れました。

 3 もう、街にはあの谷村さんの好きな、夕暮の燈火がつきそめていました。谷村さんは、さらに声高く李白の詩をうたつて、下宿...

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街路樹のすゞかけ

「マア、それは、でも……御道順でございますか?」「いゝえ後返りですが、僕はひま[#「ひま」に傍点]ですから帰りましよう」「済みませんわ、そんなにして戴いて……」 街路樹のすゞかけ[#「すゞかけ」に傍点]がさわさわと谷村さんの頭の上で鳴つていました。谷村さんは凉しい風に何気なく帽子を取りましたが...

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