清修館へ越して二度目の夕飯です

 谷村さんは髪に練り油をつけながら、また肩で笑つて見せました。

 4 清修館へ越して二度目の夕飯です。めじまぐろの焼いたのに、油揚げと大根の汁と、葱蒟蒻の味噌なます[#「なます」に傍点]、谷村さんはどれも好物ではありませんでしたが、太つちよの下女の持つて来るお櫃が待ち切れないで、そつと、味噌なます[#「なます」に傍点]なんぞ摘んでみたりしました。「あゝ急がしいこつた」「大丈夫だと思つたンだけど、とても空いちやつたんだよ」「何だ、谷村さんは子供と同じこんだ」 太つちよの女中は、きわめて小さく見えるお櫃を置くと、谷村さんの前に肉づきの厚い手を差し出して、「さア、一杯飯ついであげようかね」「いゝよ、僕つぐから」 それでも、太つちよの下女は優しげな手つきで、谷村さんに御飯を一杯お給仕しました。そして、何だかもじもじと去りがたくしておりますので、谷村さんは眉をひそめて云いました。「もういゝよ」「そうですか……」 太つちよの女中は、レースの衿のところから、自分のふところ[#「ふところ」に傍点]へ手を差し入れると、小さい卵を二つばかり出して、谷村さんの膳の上にのせました。「何するの?」 谷村さんは顔を真赤にして、その卵を睨みましたが、もう太つちよの下女は障子の外に出ていました。

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